研究内容
※先生へのインタビューを話題ごとに掲載予定
エピソード1 ~後期早産児と母乳育児支援への興味~
インタビュアー:先生の研究で興味を持ったのが後期早産児に焦点を当てているところですが、どうしてこの後期早産児に興味を持たれたのかそのきっかけを教えてください。
佐藤:以前、助産師として周産期医療に関わっていました。長期にわたり入院するお母さんたちとの関わりがきっかけだと思います。
産科病棟には母体合併症のため全身管理が必要な方が入院します。入院期間が長くなると「早く自宅に帰りたい」、「24時間の持続点滴をやめたい」、「入院費用ばかりがかさんで支払いができるか心配」などの不満や不安が募ります。「出産=長期入院からの解放」なので、一旦、目前にある課題から逃れたいと思うのは無理のないことだと思います。「多少早く産まれてもいいのでは」と考えるのでしょうね。
そういったお母さんの赤ちゃんは、実際に35週~36週台で産まれることはあります。出産直後は、それまで赤ちゃんのことを心配していたこともあり、無事に元気な姿で産まれてきたくれたことだけで十分という思いをもたれていたと思います。しかし、日が経つにつれ、「もうちょっと泣いてくれてもいいのに」「おっぱいの時間なのに何で起きてくれないのかしら」という現実に直面します。赤ちゃんの体に何か異常があるということはないのですが、赤ちゃんと双方向のやりとりがうまくできないことにお母さんたちは不安を感じていました。
今、振り返ると助産師として働いていたころに、後期早産児についてもっと知っていたら良かったと思います。多少早く産んでもいいのではないかという思いや、実際に産まれてみたら赤ちゃんがあまりにも静かでどうしたらいいのかわからない現実に直面するお母さんたちに寄り添い、一緒に対策を考えることができたのではないかと思っています。そんな反省からでしょうか。後期早産児に興味を持ちだしたのは。
インタビュアー:母乳育児支援に焦点を当ててらっしゃいます。なぜそこの母乳に焦点をあてたのですか。
佐藤:「母乳育児は、赤ちゃんの産まれた家庭の収入、そして国の経済状況に関係なくその赤ちゃんにおける人生の最初の1時間から2歳以降またはもっと長期にわたり赤ちゃんを病気や死から守る可能性がある(世界保健機構World Health Organization 以下WHO・United Nations Children’s Found 2015)」と言う考えにとても共感しています。出生したすべての赤ちゃんが平等で最高のスタートを切ることを実現させるには母乳が重要な役割を担っていると思うと自分の仕事の尊さを感じます。しかし一方で、臨床で働くスタッフそれぞれは様々な意見を持ちます。
「お母さんがこんなに疲れてるのに何で三時間おきに授乳させるの?」、「まずは、後期早産児の赤ちゃんはおっぱいを飲むことに体力を使うんだから、必ず飲める人工乳を与え、体力をつけてあげたらいいんじゃない」、「無理に直接授乳しなくてもいいんじゃない?疲れさせたらその分、体力を消耗させてしまう」。こういったやり取りは、時として入院中一度も直接授乳をしないまま退院させることにつながっていました。
あとは在院日数延長の問題です。赤ちゃんの体重が増えず退院できなくなった時、お母さんも一緒に退院を延長していました。病床数が常に満床な病棟ではベットコントロールがつかなくなります。仕方なく人工乳を多めにあげて体重を増やしてから退院させることもありました。赤ちゃんにとって第一優先して与える栄養は何なのか、そしてお母さんがお家に帰って自分の力で赤ちゃんを育てるための、本当の手助けが不足していました。業務優先になってたっていうところが反省です。
結果的に、「後期早産児として生まれ、早産児ではあるものの正期産児に近く、特に大きな異常もない赤ちゃんの母乳育児がどこかへ追いやられる」という、もどかしさを感じていました。なんとか改善の方法はないものかと後期早産児の母乳育児支援について考えるようになりました。